アーティスト(東京からIターン)
東京から酒田へIターンし、現在は東京と酒田の二拠点でアーティストとして活動されている福濱さん。都会とまったく違う環境の中で感じたことや、作品制作への影響についてお話をお聞きしました。
子どもの頃からずっと東京で生活してきましたので、東京ではない場所での暮らしも一度経験してみたいという気持ちがありました。酒田に移住する前に、山梨県に行って長期間住み込みで働く機会があったのですが、そこで都会を離れて自然豊かな場所で生活を送ることの魅力を知ったこともきっかけのひとつです。お付き合いをしているパートナーが酒田への移住を考えていたこともあり、私もオンラインでの移住相談イベントなどで情報を集めて、一緒に酒田へと移住することを決めました。当時、酒田についてはほとんど知識がなかったので、移住相談窓口の担当者さんにはどんなところなのかいろいろと質問しました。「冬場は風が強くて寒さが厳しい」、「雪が多い」と教えてもらいましたが、それを聞いて不安になるというよりも「一体どんな感じなんだろう」と、かえって興味がわきました。東京では雪が降ることも少なく、降ってもほとんど積もらないので、酒田で一面の雪景色を見ることが楽しみでしたね。
東京にいた頃から、油絵を描いてギャラリーなどで発表しています。グループ展や個展のお話をいただければ、そこに向けて作品を制作し、並行して普段の制作やコンペへの応募をする、という感じですね。現在はおもに東京と酒田の二拠点で活動しています。酒田に移住してからは二番町にある「Gallery + store 2号室」で個展をやらせていただき、今後は日本海総合病院での展示も予定しています。そして、美術に興味がある人に向けたワークショップも開催しました。一緒にデッサンを描いたり、コラージュをしたりとどなたでも参加できる内容で、参加してくれた方からも「絵にふれる機会が少ないので嬉しい」と言っていただきました。ワークショップを行ったのは初めてでしたが、私自身もいろんな人との新しい出会いや交流があり、楽しみながら取り組むことができました。絵を描いたり何かものづくりをしている人の数は東京のほうがずっと多いですが、酒田では人が少ないからこそ、何かつながりがあったらお互いに興味を持って親しくなれる、そんな開放的な雰囲気があります。
また、酒田市に移住した時期にちょうど酒田市美術館と土門拳記念館を結ぶシェアサイクルの設置企画が進められていて、自転車へのペイントやロゴデザインを担当させていただきました。シェアサイクルは3台あり、それぞれの館と酒田全体をイメージしてモチーフや色を決めました。
酒田市美術館のシンボルカラーであるグリーンの色のシェアサイクルには、街を吹き抜ける風をイメージした直線の模様をあしらっています。土門拳記念館のシンボルカラーであるパープルのシェアサイクルには、海の微生物や植物の種のような細かい模様を散らし、酒田の豊かな自然を表現しました。酒田市の海をイメージした水色のシェアサイクルは、芸術や文化がほとばしる様子を表現した1台です。3台の自転車には共通して、酒田市美術館と土門拳記念館、そして酒田市を示す3つのシンボルマークも描かれています。
東京にいた頃は仕事をしながら作品制作をしていましたが、酒田に来てからは制作により比重を置いて生活を送っています。移住後に応募した2つのコンペで、ともにグランプリを受賞することができました。絵のモチーフは自分の身近なところや生活環境に影響されるので、これまでは描かなかった植物やろうそくの灯なども描くようになりました。移住して環境が変わったことで自分の絵も少しずつ変化していると思います。広い海や山が身近にあることや、日本海に沈む大きな夕日が見られることも大きいかもしれません。自然の持つ力に圧倒されつつも、自分が見たものの印象や色彩を絵の中に取り入れたいと感じることが何度もありました。酒田に移住して良かったことのひとつが、季節の移り変わりを実感できることです。例えば今までは物語の中でしか見たことのなかったような、雪解けとともに春が訪れるという情景を目の当たりにすることができました。もって菊という食用菊があることも酒田に来てはじめて知りましたが、春になると山菜やタケノコがあちらこちらに生えてきて、旬の食材で四季を身近に感じられるのも楽しいですね。
それから、地元酒田の方と話していて面白いなと思ったのが、同じ庄内地域でも鶴岡市は城下町、酒田市は商人の町だから気質が全然違うということです。酒田は商人の町だから開放的で新しいもの好きだとのことでした。地域それぞれの古くからの特質が、今もなお続いていることが印象的でした。近所に買い物に出かけるちょっとしたひとときにも人とのつながりを感じられますし、実際に住んでみないと分からない良さもいっぱいありましたね。
福濱 美志保 Instagram
https://www.instagram.com/mishihofukuhama/
酒田市美術館(撮影協力)
https://www.sakata-art-museum.jp/