宮城県からUターン移住
酒田の大地で芽を出した、農業者としての志
農業に全く触れたことがないまま、庄内にUターンして就農した高橋さん。
始めは収穫や出荷に楽しさを感じていましたが、経験を重ねるうちに「農業者」としての意識に変化が・・・。「農業ママは子育てにもフレキシブルに対応できるから最高です」と話す高橋さんのインタビューには、新しい農業ライフのヒントがたくさん詰まっています。
農業とはまったく縁のない家庭で育ちました。酒田市内の高校を卒業した後は、鶴岡の飲食店に就職したんですが、一生地元にいるのもつまらない、庄内地域を出て一人暮らしをしてみたいっていう気持ちが強くなり、仙台へ行くことにしました。仙台では子供服の販売員として働きながら、夜中まで友達と遊んだり旅行に行ったりと、自由気ままな生活を楽しんでいました。
当時、高校時代の友人の紹介で知り合った、酒田出身である現在の夫とお付き合いしていたんですが、結婚の話が出始めた頃から、夫の両親からゆくゆくは酒田に帰って農業を継いで欲しいという話をされていました。夫は仙台でバイク整備のライセンスを取って働いていましたが、いつかはその仕事を辞めて就農するんだってことに、特に抵抗はないようでした。私はというと、農家の暮らしは全くイメージできなかったものの、夫の両親が仙台に送ってくれるお米などがすごく美味しかったし、何よりご両親が農業を楽しんでいるって雰囲気が伝わってきたので、「農家の嫁って大変そう・・・」という発想にはまったくならず、将来的に自分自身も就農することに不安はありませんでした。
結婚したら戻るという約束だったので、入籍したタイミングで仙台から酒田へ戻ることにしました。農業に携わるにあたって、義両親と夫にはいくつか「マイルール」のようなものを提案させてもらいました。私にとって特に重要だったのは「休日」についての考え方です。農業って時間の区切りがつきにくい仕事なんですよね。出社時間が決まっているわけではないし、シフトがあるわけでもないので。何より作物は絶え間なく成長しちゃって待ってくれませんし(笑)。皆さんの中にも農家の人に休日はないってイメージがあると思うんですけど、私はそんな働き方に納得がいきませんでした。なので就農しても日曜日は休ませてもらいますって予め宣言していました。その分、月曜日はやることが山積みになりますけど、手際よく頑張ろうって思うし、一日休んでも手遅れにならない作業もあるってこともわかってきました。農繁期などはもちろん休みませんが、会社員に例えると「休日出勤」っていう感覚ですね。メリハリを持って日々を過ごすのが大切かなって思っています!!現在、私たち夫婦が任されているのは米と玉ねぎ、そして干し大根です。メロンやストック(冬から春に咲く花)は両親と一緒に育てています。苗を育てる種まき作業から始まり、それを畑に移す定植(稲の場合は田植え)、そして収穫して出荷まで、一年があっという間に過ぎていきます。
1月~2月は比較的ゆっくりできるので、この時期に2泊3日の旅行に出掛けたりします。飛行機が揺れないか心配しながら、大阪のユニバーサルスタジオに行ったこともありました。農業をやっていても、ちゃんと旅行もできるんですよ! 農業のイメージが少し変わりますよね?!今の時期、私はメロンと玉ねぎを主に担当しています。朝、家族みんなの朝食作りをして、両親と夫はそれぞれ田畑へ出かけて行き、私は子どもたちを学校へ送り出し様々な家事を終えた後、畑へ向かいます。今の時期の玉ねぎ畑は、葉が青々とまっすぐ伸びてすごくきれいです。玉ねぎが土からヒョッコリ頭をのぞかせていて可愛いなぁって思いながら、草取りなどしています。メロンはあと1か月後には収穫が始まるので、これからぐんぐん大きくなっていきますよ。
先月上旬、一年の中でも大きな仕事の1つである田植えを終えました。7町歩(=約7ヘクタール)ある田んぼに3日間かけて植えていくのですが、今年から最新の田植え機を共有する組合に入れてもらったので、昨年より効率良く作業が進みました。それでも苗を運んで田植え機に積み込んで・・・の繰り返しはヘトヘトになりますね。特に庄内平野は風が強いので、強風の日は身体の疲れ具合が全然違います(笑)。
普段は自宅に戻って昼食を摂るんですが、田植え期間はキャンプ用コンロとカップラーメンを持って家を出て、田んぼや車中で食べてすぐに作業に戻ります。時間との勝負ですね。コシヒカリ、つや姫、ひとめぼれを中心に育てていますが、別の場所では農薬を使わないお米も育てています。田植えが終わると少しホッとしますが、その後は天候を注意深く見たり、害虫対策をしたりと、稲刈りまでは心配が絶えません。それでも田んぼから望む鳥海山は、見るたびに心が洗われて、庄内に帰ってきて良かったって思います。
農家に嫁いで1年ほど経ったある日、出荷先の産直関係者から、就農している若手女子を集めて農業を広める活動をしたいからメンバーにならないかって誘われたんです。それが今の「すくすくあぐりネット」なんですが、その頃の私は同業の知り合いもいなければ友達もほとんどいなくて、畑の仕事も言われたことしかできてないなぁって少し落ち込んでいたんです。なので自分と同じ若手の方、しかも女性と繋がれることが嬉しくて、立ち上げメンバーとして参加することにしました。そこで初めて、私と同じように農家に嫁いだママと知り合いになり、農作業の進捗状況や子育ての話などが出来るようになりました。
これをきっかけに、農業女子がたくさんいるんだって知ることができ、一気にネットワークが広がりました。このネットワークがなかったら農業を続けていられなかったかもなぁと思うほど、今では助け合いながら支え合って頑張っています。職場の同僚間で話が盛り上がるのと同じで、農業者同士だと苦楽を分かち合えるので楽しいです。
「すくすくあぐりネット」の活動は、月に1度のファーマーズマーケットや関東地域への野菜の詰め合わせBOXの準備、以前ご縁があって今も交流がある横浜の保育園に旬の果物などを注文販売したりと多岐にわたりますが、メンバーそれぞれ都合をつけ合いながら運営しています。今年の2月には中町にある産業振興まちづくりセンター「サンロク」で農業女子会を開催していただき、ゲストとして参加してきました。これから農業したい方や農家と繋がりたい飲食店の方とお会いできて、とても有意義でした。
1~2月のまとまった休みでは遠出することも多いですが、普段のちょっとした休日には、家族でバーベキューやキャンプをするのが定番です。毎日農作業で外にいるけど、休みの日も外で過ごすのが好きですね。 庭でバーベキューすることもあれば、庄内空港の近くにある「庄内夕日の丘オートキャンプ場」へ行ってキャンプすることもあります。実は自宅から車で5分も掛からない同じ「浜中」の住所なんですけど(笑)、すごく気持ちよい空気で「非日常」を感じながらリラックスできるんです! 家族全員、そこでのキャンプが大好きですし、仙台にいる友人たちが酒田に来たときは、必ずそこでキャンプをします。そこでキャンプすることの良さはもう1つあって、それは私たちの田んぼがすぐ近くに見えるってこと。夫は特に、いつも田んぼや畑のことを気に掛けているので、「ちょっと見てこようかな~」なんて言いながらふらっと出かけたり、子どもたちに田んぼの様子を見せたり出来て効率が良いです。
子どもたちには折に触れて農作業を手伝ってもらっているので、将来就農してくれれば良いなぁなんて思ったりもしますが、今の息子の夢は大工さんです。もっと小さい頃は農家をやりたいって言ってくれていたんですけどね(笑)。昔は農家の子どもって親が忙しくて構ってもらえないってイメージがありませんでしたか? でも実は全然そんなことはないんです! 平日の学校行事にも欠かさず行けるし、発熱で急なお迎えが必要になってもパッと動けるし、子どもたちも畑にくればいつでもママに会えるし、良いことしかないですよ!!
まずは農業など関係なく、酒田市はとても住みやすいと思います。今やネットで大抵のものは買える時代なので、住む場所として大切なのって、きれいな空気とか安心して暮らせる環境だと思うんですよね。広々としているので車の運転一つとってもゆったりできますし、子育てものびのびできますよ。そして酒田は食べ物が本当に美味しいんです。お米もメロンも、作っている自分が驚くくらい美味しいです!
次に、私のように農業未経験者で農家に嫁ぐ場合や家族やパートナーが就農したくて移住する場合は、最初にどの程度農業に関わるか話し合ったり自分の気持ちを伝えたほうが良いと思います。農家に嫁いでも、就農はせず会社勤めしているママ友達もいます。私も休日の考え方や、子どもが生まれたらどうしたいか、その後子どもが何歳くらいまでは家庭を中心にしたいなど、結構しっかり話し合いしました。最初に何を話し合ったら良いかわからない場合は、「今はイメージが湧かないけど、何か感じた時や思った時はちゃんと話し合ってやっていきたい!」って気持ちは、パートナーや周りの家族に伝えるのが大切だと思います。
農業していることを話したら、「大変そうだね」って言われたことがあるんですけど、私は「え? なんでそう感じるんだろう」って思ったんです。自分は農業をそんな風に大変だと捉えたことはないので・・・。 その時の私が疲れた顔をしていたのかもしれませんけど、それ以来、「農家って楽しそうだね」って言われるような農業者になることが目標です!!