株式会社エリア・専務取締役
市内の空き家事業を担う(株)エリアの専務・政木佑也さん。上京して不動産会社で働いていましたが、同郷の友人から酒田での起業の誘いを受け、Uターンを決意しました。
小中高は酒田で育ち、大学進学にあわせて上京しました。生まれは東京で母の実家もあるので、子どもの頃から年に3回くらいは家族で東京に出かけていました。だから漠然とですが、昔から東京に行きたいという気持ちはありました。大学卒業後は不動産会社に就職して、営業として働いていました。忙しくも充実した日々でしたが、あるとき、同じように上京している友達と一緒に飲む機会がありました。その友達というのが弊社代表の伊藤捷なのですが、彼から「地元に戻って一緒に起業しないか」と誘いを受けました。突然のことではありましたが、伊藤とは高校時代からの友達で気心知れた仲ですし、部活でキャプテンを任されるなど周りからも一目置かれ、信頼も厚い男でした。伊藤の起業への真剣さと、地元・酒田で会社を興すというビジョンに心を動かされ、私も「酒田で起業しよう」と決意しました。
当時、すでに結婚していたため、酒田で起業したいということをまず妻に相談しました。妻も酒田出身で、起業に向けての自分の気持ちを率直に伝えると「やりたいことがあるならついていくよ」と言ってくれました。しかし、私の両親と妻の両親は酒田に戻ることに反対でした。東京の方が給料も高く、大手企業でのキャリアを捨てて戻ってくることに抵抗があったと思います。もう少し東京で働いてからのほうが良いんじゃないかと。でも、自分としては「地元・酒田で友達と一緒に起業する」という思いがどんどん強くなっていき、「がんばりますのでごめんなさい!」と半ば反対を押し切るようなかたちで酒田へと戻りました。
Uターンしてからは会社設立に向け、書類を作成して役所に持ち込んだり、不動産業を行うために宅建協会に加入したりと、とにかく忙しかったですね。事業を始めるにあたって知識のある方々にアドバイスをいただく機会も多く、周りからの助けが本当に有難かったです。2021年12月には今の会社の前身である「合同会社地域総合商社」を設立することができました。
弊社が手掛けている事業は大きく分けて「不動産の空き家事業」と「イベントの企画・運営事業」の2つです。メインとなるのは空き家事業で、簡単に言えば空き家の所有者さんと交渉し、土地を探している方と結び付ける仕事になります。空き家の処理について悩んでいる所有者さんも多いので、抱えている課題をひとつひとつ丁寧に聞き、解体費用の捻出などの解決法を提案していきます。
実際にこの事業を始めてみると市内には多くの空き家があって、空き家の処理という課題にまだまだ手が付けられていない状態だということが分かり、すぐに「自分たちのやろうとしていることは需要がある」と実感しました。ただ、最初のうちは所有者さんと交渉を進めていくなかで、私たちが若く、会社も設立したてだということで信用が得られず、結局は別の業者に依頼されてしまったこともありました。残念でしたが、その所有者さんを空き家の処理に向けて説得することはできたので、まだまだ信頼と商談力が足りなかったけれど方向は間違っていない、いずれは成果に結びつくはずだという手応えがありました。そして今年になってから、これまで滞っていた案件が一気に進み、20件くらいの空き家を処理することができました。まだこれからではありますが、少しずつ事業が軌道に乗ってきたと感じています。
事業を始めて間もない頃は、私も伊藤も東京で仕事をしていた時の感覚のまま交渉を進めていました。要は数字や金額など、「利益」を分かりやすく伝えることを重視していたのです。でも、それだけでは酒田の人の気持ちを動かせませんでした。気づいたのは、酒田は本当に「和を大切にする人」が多いということです。例えば、物事を決める際にも家族や親族がどう思うかとか、解体すると近所に迷惑がかかるんじゃないかという風に、自分のことよりも周囲への配慮を大切にされます。そんなところも空き家の課題がなかなか進まない理由のひとつなのかもしれません。空き家事業といっても、向き合うのはその所有者である「人」です。所有者さんひとりひとりに、それぞれ異なる困りごとや思いがあるので、しっかり話を聞き、気持ちに寄り添うことを大切にしています。
そして、空き家事業に平行して、地域のイベントの企画・運営事業も行っています。こちらは収益というよりも、育ったまちに貢献したいという気持ちで取り組んでいて、これまでラーメンや日本酒を絡めたイベントを開催してきました。酒田の強みは食べ物ですので、食べ比べや飲み比べなどで若い世代を巻き込むようなイベントを発信していきたいです。
せっかく戻ってきたので酒田をもっと面白くしたいという気持ちがあります。これからの夢にもなりますが、いずれは会社を大きくして、酒田を出た友達にも声をかけて呼び戻し、一緒にまちのために働けたら最高ですね。
私は起業するために酒田に戻ったので、Uターンで移住したという意識がほとんどありませんでした。移住当時は会社設立に向けて駆け回っていたので、移住の支援制度には目を向けていませんでした。家賃補助やお米と味噌、醤油がもらえる制度があったと後から知って、調べておけばよかったと思いましたね。Uターンで地元に戻る人は「移住」という意識があまりないかもしれませんが、適用する制度があるかもしれませんので、まずは市の移住相談総合窓口などに行って確認してみることをおすすめします。